樫の木の恋(上)
こうしてみるとやはり女子。自分よりも少し小さな体は自分から逃れるかのように押し入れの布団に預けるがそれ以上逃げられずに最後の抵抗とばかりに顔を背ける。
「それと、また竹中殿って言ってますよ?半兵衛って言うまで退きません。」
木下殿の顔を覗き込むように言うと可愛らしい顔が恥ずかしがりながら困っているのが見えて、どうしても意地悪してしまう。
「は、…半兵衛………。」
消え入りそうなくらい小さな声は、精一杯の回答だった。しかし、それではただいたずらに自分の意地悪な心をくすぐっただけに過ぎなかった。
「ふふ。聞こえないですよー?」
「なっ!き、聞こえてた!絶対聞こえてた!竹中殿の意地悪!鬼畜!」
少し目元を潤ませながら文句を並び立てる木下殿。そんな顔で言われたって全然悲しくも悔しくもならないのに。
「また竹中殿って言ってますよ?名前を呼ぶときは目を見てしっかり言わないと駄目なんですよ?」
「……むぅ……は…」
「は?」
意を決したのか木下殿は真っ赤な顔を上に向けた。顔の近さに目が泳ぎまくっている。
「は……半兵衛!」
名前を呼ばれた時の余りの可愛さに思わず木下殿を抱き締めていた。お会いして間もないというのに、このお方は心をすぐに掴んでくる。
「は、半兵衛!?何をするのじゃ!は、離れ」
「今しばらく…。このままではいけませぬか?」
静かに諭すように話すと、木下殿は諦めたかのように大人しくなって顔を冷ますために手で扇いでいた。
この恋は波乱を含むだろうなと抱き締めながらため息を静かについた。