樫の木の恋(上)
「どうした半兵衛。いつまでも突っ立って。」
そう言われたので秀吉殿の前に腰を下ろす。
「明日から十日間、城を頼むな。」
笑いながら言う秀吉殿。久々に笑顔を見たなと嬉しく感じながらも、三成の言葉がじわじわと自らも蝕んでいく。
「秀吉殿…一つ聞いても良いでしょうか?」
「ん?構わんが?」
重いと嫌われてしまったらどうしようと心がぐらつくが、そんなことで嫌いになるようなお方ではないと己を律し秀吉殿に質問する。
「三成と…何かありましたか?」
律したのに、この程度が精一杯だった。そんな臆病者な自分に嫌気がさす。
「いや…何もないが。」
「そうですか…。」
それ以上聞けない自分に秀吉殿が首を傾げながら、近づいてくる。
「どうしたんじゃ?半兵衛。」
ぎゅっと秀吉殿を抱き締めると、抱き締め返してくれる事に幸せを感じる。
「いえ、何でもありませんよ。」
前に大殿に言われたな。変なところで奥手だと。
確かにそうかもしれない。臆病者で秀吉殿を束縛してしまいたくなる重たい自分。
知られてしまえば秀吉殿に嫌われてしまうかもしれないな。そんなことを考えていた。