樫の木の恋(上)
秀吉殿が京へと向かってから三日が経っていた。仕事に追われ、今浜城の仕事や城のお金の計算などやっていた。しかし、秀吉殿と三成の事が頭から離れることは無かった。
「最近竹中殿荒んでおられますが、どうかいたしましたか?」
清正にそう心配されてしまう有様だった。女子にうつつを抜かしているようではいかんな。
そう心を律する。
「ああ、すまん。大丈夫だ。それより今浜城の方は大丈夫か?」
「ええ、順調に進んでおります。」
「そうか。」
「やはり竹中殿、殿の事が心配で?三成の奴、殿の事を狙っていましたからな。」
清正は武骨者のくせに案外勘が鋭い。
「殿は大丈夫ですよ。竹中殿の事がお好きですから。」
そんな風に慰められてしまった。
自分はそんなに余裕が無かったのかと今更ながらに恥じていた。
「まぁでも竹中殿は大変ですよね。殿は気心知れてる人には無防備なお方ですから。」
「ははっそれは言えてるな。もう少し気を付けて欲しいものだが…な。」
確かに無防備。気心知れていない人には秀吉殿は冷たくし、遠ざける。しかし身内には凄く優しいお方だ。
「殿は美しいお方ですから、言い寄る男も多いでしょう。しかし竹中殿の事を裏切るようなお方ではないですよ。」
「清正、ありがとうな。」
そう言うと清正は嬉しそうに笑い、失礼しますと言って去っていった。
清正の言う通り、秀吉殿は自分を裏切るようなお方ではないはず。信じて待つことにした。
秀吉殿が戻ってきたときに仕事に追われないよう出来るだけ終わらせておこう。
そして帰ってきたら二人でゆっくりしよう。
そう思うことにした。