樫の木の恋(上)
秀吉殿は十日を一日過ぎた昼頃に帰ってきた。その顔は疲れきっていて、さすがに帰ってその日はゆっくりさせてくれと部屋に籠っていた。
自分も昨日で急ぎの仕事はすべて終わったので、今日やっていた仕事を早急に切り上げ、秀吉殿の部屋へと向かった。
「あっようやく来た。」
秀吉殿は来るのが分かっていたかのように笑顔で出迎えてくれた。しかしそこには三成も一緒に居たのだった。
「では殿、例の件考えておいて下され。」
「ああ、分かった。」
そう言って入れ違いで三成は出ていった。出ていく際に三成は少し笑ったように見えた。三成の態度に苛つきながらも後ろ手に襖を閉めながら平然を装い問う。
「三成とどのような話を…?」
「ん?ああたいしたことではない。」
そんな返答をされたら、気になってしまう。しかし秀吉殿はそんなそれがしの気持ちには気づかずに畳に寝転んだ。
「疲れた!」
そう大きな声で叫ぶ秀吉殿を見ていたら思わず笑ってしまった。
「笑うな半兵衛!朝廷の連中はあれやこれやとうるさいし、もううんざりじゃ!」
こんな風に子供のように気持ちを出す秀吉殿を見るのは初めてで、なんだか少し嬉しくもある。
そんな秀吉殿に歩み寄り、座布団を枕にし横に寝る。
日は気持ちよく、涼しげな風が入り気持ちがいい。
「のお、半兵衛。」
「なんです?」
秀吉殿はごろんと転がりこちらへと向く。