樫の木の恋(上)
しばらく仕事をしていた。秀吉殿が夕方より少し前に寝初めて、仕事をしていたらもう既に暗くなっていた。
まだきっと寝ているだろうなと思いながら、秀吉殿の部屋へと向かった。
少し向かう足が軽く感じれる。
秀吉殿の部屋の前までつき、襖を開けようとする。しかし中から声が聞こえてきて思わず手が止まった。
「ん…半兵衛…?」
秀吉殿が寝ぼけながら自分の名前を呼んでいるのが聞こえる。なんだ、秀吉殿が寝ぼけただけだなと思いもう一度手に力を入れようとしたときに三成の声が聞こえた。
「竹中殿ではないですよ。三成にございます。」
「んー…三成か。なんじゃ寝てるときに。夜這いでもしに来たか。」
秀吉殿は恐らく冗談で言ったのだろう。それは分かっている。しかしそれでも背筋に嫌な汗が流れるのが分かる。
秀吉殿が体を起こす音がする。
「しても構わないのでしたら、したいくらいですが。」
「本当に三成は面白い奴じゃな。」
「おや、本気にしておりませんね。それがしは本気なのですが。」
三成の奴!
思わずそんな風に思ってしまっていた。しかし秀吉殿がこんな調子だったなら、十一日間こうして三成をあしらっていたのではないかと少しだけだが安心した。
「ははっそーかそーか。して、何の用じゃ?」
「ああ、城の事なんですが。」
二人は真面目に小谷城建設の話をしていた。しかしそれもすぐに終わる。
「そんなことを聞くために起こしたのか?」
「そうです。しかしそれだけではございません。」
「なんじゃ?」
秀吉殿が不思議そうに問う声が聞こえる。
「殿の寝顔と寝起きの可愛らしいお顔を拝見したかったのです。」
「なっ!またそうやって三成は!」
腸が煮えくり返っていた。秀吉殿もきっと顔が赤いのだろうな。それが余計に腹立たしい。
「京にいる間、毎日殿の寝顔を見ていたのでつい癖になってしまって。」
「そんな癖を身に付けるな…。」
「でも寝顔も良いですが、そうして顔を赤くされてるのも可愛らしくて食べてしまいたいくらいです。」
「ちょ…!」