樫の木の恋(上)
さすがに我慢しきれず、襖を勢いよく開ける。
蝋燭の炎と月明かりに照らされた二人に目を向ける。
三成の右手が秀吉殿の頬に当てられていた。秀吉殿の顔は案の定赤くて、さらに腹立たしくなる。
「おや、残念。いいところだったのですが。」
「秀吉殿から手を離せ……。」
「怖い怖い。竹中殿が来てしまったので、それがしはおいとましますね。」
そうして三成はまた少し笑って帰っていった。
要注意人物どころか、ただの危険な奴ではないか。
「半兵衛…顔が怖い。」
「秀吉殿は油断が過ぎます。」
布団の上で静かに苦笑いしながらこちらを見上げてくる秀吉殿。
秀吉殿に近づき静かに布団の脇へと腰を下ろす。
「あまり怒るな。三成も冗談じゃろうし、そう神経質になるな。」
秀吉殿は本当にそんな風に思っているのだろうか。冗談だと。そんな訳無いのは明らかで、三成は本当に秀吉殿を欲している。
「冗談だと本当にお思いなのですか?」
「そりゃそうじゃろうよ。三成はおふざけが過ぎる奴じゃからな。女である私をからかいたいんじゃろうよ。」
本当にこのお方は無防備だ。男として生きていた間が長かったからだろうか。本当に厄介なものだ。
「秀吉殿、三成には気を付けてくだされ。」
「分かった分かった。まったく半兵衛は心配性じゃの。」