樫の木の恋(上)
秀吉殿のその言葉に思わず頭に血が上ってしまう。自分でも大人げないと分かっていながらも、先程の三成の手が秀吉殿の頬に触れていた光景がちらついて、冷静でいられなくなる。
「秀吉殿が無防備なのが行けないのです!」
「無防備?私がか?」
秀吉殿が少しむっとしたのが分かった。ここらで止めなければ喧嘩になる。そう分かっていても抑えきれなかった。
「三成に顔など赤くして…!無防備ではありませんか。」
「仕方ないじゃろう。あんな風に言われたら誰だって赤くなるじゃろう?」
「それが無防備だと言うんです。そもそもそういう風に言われる秀吉殿にも非があります。そうやって気を持たせるから…!」
秀吉殿の顔が明らかに歪められた。
「…気を持たせるなどしておらん!そりゃ昔はそういうことをしてきた時もある!じゃが、今は…」
「しかし現に三成は秀吉殿に好意を抱いております。」
「そんな、私が誘ったみたいな言い方…!」
「秀吉殿はそうやって油断をされるのは誘っているも同然です!」
「もう半兵衛など知らん!もう下がれ!お主の顔など見とうない!」
やってしまったと思った。酷い言い方をしてしまったと。しかしやはり怒りが収まらず思いっきり立ってつかつかと秀吉殿の部屋から出てしまった。