樫の木の恋(上)
秀吉は半兵衛が何故あそこまで三成に怒るのか、それが分からなかった。普段の温厚な半兵衛からは考えられない。
しかしそれと同時に傷ついていた。
秀吉は三成を部屋へと招き入れ、怪我はないかと問う。
三成は実際は怪我などしていなかったが、壁に押し付けられた際に背中打ってそれが痛むと秀吉に嘘をついた。
「大丈夫か?打ち身に聞く塗り薬があったはず。ちょっと待っとれ。」
秀吉は自分が怪我や病気になった際に困らないようにと、男として振る舞っていた時の名残で薬をたくさん持っていた。
それを探そうと三成に背中を向けたとき、ふわっと三成に後ろから抱き締められた。
「三成…何をする。」
「竹中殿は殿の事を利用してるに過ぎません。」
「滅多なことを言うな。半兵衛はそんな奴ではない。」
三成は秀吉が逃げようと思えば逃げられる程度に抱き締めていた。それは秀吉も分かっていて、だからこそからかっているだけだと決めつけていた。
「しかしこの間、竹中殿がとある女中と柱の陰で口付けを交わしているところを見ました。」
「はっ!そんなわけ」
「本当にございます。そのあと誰に見られるかも分からないその場所で女中の太股を触ったり」
「やめんか!言って良いことと悪いことがあるぞ。」
秀吉は三成を強く振り払い、振り返って睨み付ける。
「しかし殿。竹中殿はそのあと、女中に言ったのですよ?秀吉殿は抱けぬつまらぬ女子だから…と。」
「え……」
これは全て三成の作り話に過ぎなかった。しかし徹底して二人の関係を探っていた三成は、二人が長らくなのか一度もなのかは分からないが、身体の関係を持っていない事も張り付いていて把握していた。
しかしそれが秀吉にとっては絶望させるに容易い言葉だった。
気に病んでいたのだ。己が怖くて半兵衛にそういうことをさせてやれないことを。
半兵衛は気を使って、したいなどと一度も言わないし、大殿のように慣れさせるためと言って少しずつ触っていったりも一切無かった。それが秀吉の自信を無くしていたのだった。
半兵衛と大殿しか知らないこの事を三成が知ってることによって話に信憑性を持ってしまった。
三成の賭けともとれるこの言葉は見事成功した。