樫の木の恋(上)
「竹中殿はそのように殿の事を見ておられるのです。」
「そんな…馬鹿な…」
「ましてや女中にまで手を出して欲求を満たすなど…」
「嘘じゃ!そんな…半兵衛が…」
三成は再度秀吉を抱き締める。
茫然としている秀吉は三成を拒否する事を忘れ、ただ抱き締められていた。もはや三成に抱き締められている事すら認識出来ない程だった。
思わず秀吉の目から涙がこぼれた。
「あのような殿の事を酷く考えておられる男の事でそのように切なくならないで下さい…。」
「好き…なのに…。」
「あの男はその殿のお気持ちを利用し、弄んでいるに過ぎません。」
「…嘘……」
三成は秀吉を強く抱き締める。正直三成は予想外だった。いつも自信に満ちていて、強気な殿があっさりと三成の話を信じて、こんなに取り乱しましてや涙を流すなんて。
それだけ竹中殿の事を愛していて、その分不安なのだなと感じていた。
そしてそれと同時に腹立たしかった。
「殿…それがしでは…いけませんか?」
「は…?」
「それがしでは、竹中殿の代わりにはなりませぬか?」
「…馬鹿を…言うな。」
三成はすっと秀吉を離し、真っ直ぐに見つめる。そして右手で秀吉の頬にゆっくり壊れ物を扱うかのように触れた。三成の手が触れて、茫然としていた秀吉は思わずびくっと反応する。
「殿…好きです。」
「今は…それどころでは…」
「今だからですよ。殿は竹中殿の事で悲しみに暮れているでしょう?ですから、今それがしが支えたいのです…。」