樫の木の恋(上)
三成が一人になった時を狙い、捕まえ部屋へとつれてくる。
「どうされました?」
とぼけた風に聞いてくる三成に少しずつ苛立ってくる。しかし掴みかかってはまた同じこと。我慢して静かに問うことにした。
「三成…秀吉殿に何か吹き込んだか?」
「何かと思えばいきなり。何故そう思われるので?」
「秀吉殿の態度がおかしい。」
三成は腕を組みながら、面白そうに笑った。
「そのようなら曖昧な理由で疑われてはかないませんな。」
「だが、秀吉殿はあからさまに」
「殿は!」
いきなり三成が大きめの声で話を遮ってきた。驚いて三成の顔を凝視すると三成が口角をあげ得意気に口を開いた。
「殿はやはり唇が柔らかいのですね。」
「は?」
「口付けをしただけで顔を真っ赤にして本当に可愛いお方ですね。」
「三成!貴様!」
三成と秀吉殿が口付けを交わしている光景が頭をよぎる。
「殿が同意の上なら問題はないはずですよ。」
「秀吉殿が同意などするわけ!」
「では、殿に聞いてみたらどうです?もしそれがしが言っている事が本当でしたら、殿の事を諦めてくれませんか?」
自信たっぷりの三成に目の前が真っ暗になる。
秀吉殿を、諦める?
そんなこと出来るわけがなかった。
「そんなの…無理に決まってる。」
「殿は竹中殿で悩みたくないのです。出来れば顔など見たくない程に。ですから竹中殿が手を引いてくれれば、殿は悩まずに済むのです。」
「………諦められる訳がない…。」
「では殿が不幸を感じても良いと言うのですね?」
「それは……。」
それはもっと嫌だった。秀吉殿に嫌な思いをさせるくらいなら身を引いても構わない。
そう思った。
黙る自分を見て三成は納得したのだろう。
「では、もし口付けの件が本当でしたら、身を引いてもらえますね?」
「……仕方あるまい。本当なら…な。」
自信たっぷりの三成を見ていたら、もう本当に秀吉殿は三成のものになってしまったのだと思わざるをえなかった。
三成を見ていたら確認するまでもない。
そう分かっていた。
しかしそれでも秀吉殿を信じたくて、急いで秀吉殿の部屋へと歩を進めていた。