樫の木の恋(上)
「秀吉殿!」
気が急いていて声もかけずに秀吉殿の部屋の襖を開ける。案の定秀吉殿は部屋にいた。
「…なんじゃ。」
冷たい顔をして冷たく問いかける秀吉殿。だけどそれが何故か少し寂しそうに見えた。
秀吉殿も寂しいと思ってくれているのかと期待を持ってしまっている。そんな自分が嫌だった。
「用が無いなら出ていってくれんか。」
「三成と…」
秀吉殿の眉がぴくりと動く。気にしているのか三成の事を。
「三成と…口付けしたのですか…?」
秀吉殿は一度目を見開き、それからゆっくりと目を伏せ顔を反らした。
「…した。だからどうした。」
やはり三成の言っていたことは本当で、もう秀吉殿にとって自分はどうでもいいのだと悟った。
しかしそれをどうしても受け入れられず、思わず崩れ落ちそうになる。
「秀吉殿…それがしの事は嫌いになられたのですか…?」
「……。」
「それがしはもういらないのですか…?」
「半兵衛は私の軍師としているはず。要らないわけないだろう。」
「そういうことでは…!」
「半兵衛…下がれ。」
秀吉殿の厳しい目がそれがしを捉える。拒絶にも似たそれは見ていて辛くなる。
「秀吉殿…好きです…」
「下がれ!」
立ち尽くす自分に秀吉殿はつかつかと歩み寄ってきた。
そして腕を掴み部屋の外へと追い出される。
「秀吉殿…!」
「半兵衛…頼む…。私はもうお主が嫌なんじゃ…。」
そう辛そうに秀吉殿は言って襖をぴしゃりと閉めた。
もう…無理なのだと悟った。