樫の木の恋(上)
「羽柴殿、竹中殿、石田殿。大殿がお呼びです。」
夕方を少し過ぎ、暗くなっていた。そんなときの呼び掛けだった。
そのうち呼ばれるような気はしていた。しかし三成まで呼ばれるとは思わなかったが。
小者が去っていった後に、秀吉殿が立ち上りその後ろをついていく。
大殿は大殿の部屋にいるとのことで、三人で向かっていった。
部屋に入ると大殿は窓枠に寄りかかりこちらを見てにやっと笑った。
「まぁ堅い話では無い、適当に座れ。」
適当に座ると大殿は少しため息をつきながら、話をしだした。
「秀吉、半兵衛と何かあったのだろう?」
秀吉殿も予期していたのだろう。驚くことなく静かに答える。
「…いえ特には。」
「ははは!嘘をつくな!半兵衛と別れ、三成と仲が良いと噂に聞いてな。今日のお主らを見ていたら本当な事くらいすぐに分かるわ。」
大殿はやはり鋭いお方。瞬時に見抜いていたのだ。
「秀吉、全て話せ。」
「これは大殿に関係の無いことです。」
「ほう…わしに逆らうというのか。」
「そういうわけでは…」
秀吉殿に言われ厳しい顔を向ける大殿。秀吉殿も怒ると怖いが、大殿はより迫力がある。それを想像したのだろう、秀吉殿が口ごもる。
「関係無くはない。なんせ、元々お前はわしの妾だったのだからな。半兵衛と別れたのなら、わしの元に戻したいと思うのは自然な事じゃろう?」
三成は酷く驚いていた。まぁ何せ、秀吉殿が元々大殿のものだった事を知っているのは、当の本人と自分と明智殿だけだ。
別に隠しているわけではないが、公言するようなことでもない。
「じゃから、話せ秀吉。」
大殿は少しにやっとしながらも圧力があった。