樫の木の恋(上)
「三成。お主、図ったな?」
大殿は厳しい目をしながら三成を刺すように見る。
「はて、なんのことでしょう?」
そうとぼけたように三成が答えると、大殿は高らかに笑いだした。
「三成!お主いい性格をしておるのぉ!わしの配下にしたいくらいじゃ!なかなかの策士じゃのぉ。」
秀吉殿と自分は呆気にとられ大殿を見つめるしかなかった。三成はなにも知らぬ存ぜぬといった態度を貫いている。
「秀吉!分からんのか?お主は三成に担がれたのじゃよ。」
「し、しかし!抱けぬというのは、大殿と半兵衛しか」
「そんなこと、毎日お主らに夜中張り付いておれば分かる事じゃろう。忍びにやらせてもよいしな。」
秀吉殿は目を見張り、思いっきり三成へと振り向いた。
「三成!貴様…」
「まぁそう三成を責めるな。三成はお主が本当に好きなのだろうよ。」
「残念です。騙し通せると思っていたのですが。」
飄々とした態度で三成が笑う。秀吉殿は大殿にそう言われて三成を責めるに責められなかった。
「では、あの半兵衛の話は…嘘、なのか?」
「ええ、まぁ。」
三成がそう答えると秀吉殿はそれがしの方を向いて、本当なのかという顔をする。
「それがしがそのようなことするわけありません。秀吉殿が好きなのですから…。」
「そう…か…。」
「それにしても三成は凄いの。秀吉と半兵衛をまんまと仲違いさせるのだから。嘘をつくのにも度胸がいる。三成は本当に策士じゃな。」
安心しているのか茫然としている秀吉殿の横で、大殿はしきりに三成を誉めていた。確かに秀吉殿を騙すなど容易ではない。それを成功させたのだから。