樫の木の恋(上)
大殿が計らったのだろう。ご丁寧に布団まで綺麗に敷いてある。
月明かりが差し込むこの部屋は、綺麗な調度品などが置いてあった。
部屋に入ってすぐに立ち尽くしてしまっていた自分と秀吉殿は恥ずかしくてお互いの顔を見られなかった。
下を向いていた秀吉殿が意を決したかのように口を開いた。
「すまなかった半兵衛…。三成を信じてしまった。」
「あれは信じてしまいます。仕方ありません…。」
「しかし…お主を信じてやれなかった。すまん…。」
そう言って秀吉殿は抱きついてきた。ふわりと香る秀吉殿の香りに少しの間離れていただけなのに無性に懐かしさを感じる。
「それがしは大丈夫ですよ。それに…三成に妬いてしまいましたし…。おあいこと言うことで。」
そう言って抱き締め返す。それからどちらからともなく口付けを交わした。秀吉殿は照れながらも応じてくれる。
「それにしても困ったことになりましたね。」
「ああ…ほんとに。嘘を言ってもすぐに感づかれてしまうからな…。」
「ですよね…。」
本当に大殿には困ったものだ。
秀吉殿の心の傷は簡単に克服出来るようなものではないだろうし、ましてや朝までなど無理に決まっている。