樫の木の恋(上)
自分は何を考えていたのだろう。木下殿を独占している気になっていた。大殿と自分以外木下殿が女だということを知らないからと、木下殿と男女の関係になれるのは自分だけだと勘違いしていた。
見落としていたのだ。大殿と木下殿の可能性を。
「半兵衛とこのような事にならなかったのか?」
大殿は自分の恋心に既に気づいている。鋭さに少し驚いてしまうが、木下殿の返答が気になっていた。
「べ、別に半兵衛は…そのような事…など…」
「ほう?言葉に詰まっているところを見ると何かあった訳だな?話さんとこのまま帰さんぞ?」
「は、半兵衛が待ってます故…」
昨日の押し入れの目の前まで追い詰め抱き締めてしまったことを思い出していた。ほのかにまだ木下殿の香りが残っているような気がする。
しかし今木下殿を遠くに感じていた。
「では話すな?」
「う……。す、少し抱き締められた…だけです…。」
きっと昨日のように真っ赤にした可愛い顔で大殿に迫られているのだろう。
そう考えただけでむしゃくしゃしてきた。
「やはり…な。藤吉は半兵衛に対して隙が多い。…少し仕置きが必要だな。」
「なっ…あっ……ちょっ…大…殿っ…。」
艶やかな声がする。聞きたくないのならば離れればいいのに、どうしても聞いてしまう。足がすくんでしまっている。
「ふっ。藤吉はほんと首が弱いな。」
大殿の唇が木下殿の首を這っているのが容易く想像出来てしまう。
「大殿…!は、半兵衛が待ってます…のでっ…あっ!」
「あまり半兵衛半兵衛言うとこのまま布団に連れてくぞ。」
「こ、困ります…!」
想像もしなければいいのに。その光景ばかり頭に浮かんでくる。
きっと木下殿は着物が少し乱れていて、顔を赤くし可愛らしいのだろう。それが嫌で嫌でしかたなかった。