樫の木の恋(上)


すると、秀吉殿が後ろから抱き締めてきた。

「やめてくだされ。それがしばかり想ったところで寂しさが募るばかりですから。」

「っ…!すまんっ半兵衛。私が悪かった。」

「いえ、謝るような事ではありません。これはそれがしの気持ちの問題なのですから。秀吉殿に信用されない事に耐えきれないだけですから。」

秀吉殿の腕をゆっくりと離そうとする。しかし秀吉殿の腕は頑なに抱き締めてきて離れてはくれなかった。

「信用…してないわけではない!」

「しかし話を聞いたら、それがしが秀吉殿の事を嫌いになると思っているのでしょう?」

「それ…は…」

「信用していないではないですか。」

「それだけ…その…嫌な事じゃから…」

頭では分かってはいる。秀吉殿がそれだけ酷い思いをしたのだと。恐らく思い出すだけで、自分で自分が嫌になるほどなのだろう。
秀吉殿は己が嫌いなのだろうな。
そう感じていた。

だからこそ信じて欲しかった。

それがしを信じて、傷は治らないかもしれないが、一緒に癒す事くらいは出来るかもしれない。

それなのに嫌われると決めつけられた事が腹立たしかった。

「秀吉殿…離してください。」

「嫌じゃ!…別れとうない。」

「しかし、それがしは寂しくて虚しい想いなどしたくないのです。」

「話す…から。」

「そんな無理矢理話して貰わなくて結構です。」

そういうと背中に秀吉殿の涙が滴るのが分かった。

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