樫の木の恋(上)
今まで秀吉殿が泣くなど全く無かったからか、思わず焦ってしまい振り返り、抱き締め頭を擦る。
「…秀吉殿、泣かないでくだされ…。秀吉殿に泣かれると辛いです…。」
「…半兵衛…別れ…とうない。」
「しかし…」
「…どうしたらいい…?私は…その…愛したのは半兵衛が…初めてじゃから、どうし…たらいいか…分からん…。どうしたら…」
綺麗な涙をぽろぽろとたくさんこぼしながら、懸命に話す秀吉殿は今までに見たことないほど必死で切ない顔をしていた。
秀吉殿の涙を指で拭う。しかし次から次へと流れる涙は際限がなく、想ってくれる心が伺える。
「すみませぬ。すみませぬ、秀吉殿。別れませぬから…。」
「ぅ……本…当?」
「ええ。それがしは…本当に駄目ですね。愛してる秀吉殿をこんなにも泣かせてしまって…。」
「私が…悪い…のだから…。」
懸命に泣き止もうとしているのだろう。手で涙を拭いながら、上を向いたりして止めようとする秀吉殿。
なかなか泣き止まない秀吉殿の頭を撫でながら、ふわりと口付けをする。すると、ようやく落ち着いてきたのか涙が引いてきた。
「…はぁ。すまない…、なんだか止まらなくて…。取り乱してしまった。」
「いえ、それがしが言い過ぎてしまったから。でも…」
「でも…?」
「でも、秀吉殿がこんなにも懸命に想いを述べてくれて、嬉しく思ってしまいました。泣かせてしまったのに…。」
「だ、だって…半兵衛と別れたく…無かったから…。」
可愛く少し拗ねるように言う秀吉殿。
「ふふっ秀吉殿の泣き顔、可愛いかったです。」
「な、なんでそんなすぐに可愛いとか言えるんじゃ!恥ずかしくないんか!」
顔を真っ赤に染める秀吉殿が更に可愛くて、ぎゅっと抱き締める。
「前に言ったではありませんか。」
「え?」
「秀吉殿が可愛過ぎるのがいけないんですよ?」
「…も、もう…馬鹿…。」
おとなしく抱き締められていた秀吉殿は、顔を見られたくなかったのだろう、懸命にそれがしの胸に顔を押し付けていた。