樫の木の恋(上)

稲葉山城を奪取する少し前に、織田家が治める清洲城と稲葉山城の間にたった一夜で城が建ったのだ。
ずっと織田家は稲葉山城という強固な城に攻めあぐねていて、清洲城との間に城を建てたがっていた。しかし2度失敗して龍興殿は慢心していたときにそれは起こった。

たった一夜…。

斉藤家が気付いたときにはもう既に墨俣城は出来上がっていた。
手口は作る前の日までに、枠組みまでを川の上流で作り、それを川に流し組み立てるというものだった。

それを考えたのが目の前にいる木下藤吉郎という男。
女子にも見えるこの男。侮れない存在であることは間違いない。

「竹中殿は斉藤家を追い出されたのだろう?それを聞いて我が大殿が竹中殿を織田家に迎え入れたいと申してな。わしが迎えに来たという訳じゃ。」

織田家の大殿。織田信長は大うつけと噂ではあったが、龍興殿には無い野心を感じる。桶狭間での今川家の大軍を討った時や稲葉山攻めの時など、顔を合わせた事はないが一国の当主としての意地を感じる。

それを少しばかり羨ましいと思ってしまうのは何故だろうか。

「追い出された身であることは間違いは無いが、それがしは斉藤家に恩義がある。斉藤家に何かあれば駆け付ける所存。織田家に入るようなことはない。お帰り願おう。」

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