樫の木の恋(上)
翌日久々にお互いやることがなく居間で休んでいた時、木下殿が決意したかのように立ち上がった。
「半兵衛…。明智殿の所へ少し行ってくる。」
さっさと終わらせてしまおうという思いが垣間見える。昨日ああは言っていたが、やはり嫌なことに変わりはないのだろう。
「それがしもお供します。」
「いや、半兵衛。そんなことしなくてよい。そんなの半兵衛に嫌な思いさせるだけだ。ここで待っておれ。」
「ここで一人で待っている方が嫌な想像をしてしまいます。それがしの知らぬ所でされるより、木下殿が大声で助けを呼んですぐに駆けつけられる範囲にいたいのです。」
そう言うとやはり木下殿は諦めにも似た半笑いをし、二人で明智殿の家へと足を向けた。
昨日と同じように二人で来たことに明智殿はさぞ驚いていた。しかしすぐに納得したのか口角を上げ、面白そうに笑いながら居間に上げてもらった。
「ふふっ秀吉は良き忠犬を持っているのだな。」
「ふんっ。明智殿のような方には一生持てないでしょうな。」
嫌味というか自分が馬鹿にされたことに対し、木下殿は己のように怒った。
「部屋を移すか?余はどちらかといえば、ここでしたいくらいだが。」
「部屋を移すに決まっております。」
にやにやと自分へと笑みを向けてくる明智殿に、顔を歪めてしまう。確実に自分をからかっているのだろう。
確かに木下殿と明智殿が目の前で口付けをしたら、己を保っていられる自信がない。
「仕方ないのぉ。まぁ秀吉の頼みなら聞くしかあるまいな。」
そう言って木下殿の腰へと手を回す。そして襖を開け隣の部屋へと二人で行こうとする。分かってはいたが、やはり嫌な事ばかり考えてしまう。
「半兵衛…すぐ、戻る。」
「はい。」
そんな自分に対し、木下殿は大丈夫だという笑みを浮かべ明智殿の後ろをついていった。