樫の木の恋(上)


二条城攻めは思いの外あっさり終わった。
すぐに降伏してきたのだ。
警戒して大軍で攻めたのが良かったのだろう。門という門に配備するという木下殿の細かな下調べが効いたのだった。

こうして二条城を落としたことにより、足利義昭殿に二条城に入ってもらって、将軍家を織田家が復興したのだった。
これによって、織田家に逆らうものは将軍に逆らうものとして扱われるようになった。

しばらく木下殿と上洛の手続きや京での仕事に追われていた。それが一段落つき岐阜城での仕事をしていると妙な事を聞いたのだった。

そんなある日。

「松永久秀という方が大殿とお会いしたいとかで…」

「は?」

「城の目の前まで来ているらしいのですが…。」

木下殿は目を見開き、大殿は予期せぬ来客に頭を悩ませていた。
松永久秀といえば、将軍足利義輝の暗殺を裏で手を引いていたという噂がある。
そのような者が織田家に何の用だというのか。

大殿は困惑しながらも通せと命令し、木下殿は不安だからと大殿と一緒に松永久秀に会うと言っていたのでそれにお供させてもらった。

ぴんと糸が張っているかのように張りつめた空気のなか松永久秀は入ってきた。
底知れぬ雰囲気を漂わせたその男は大殿を一瞥してから少し笑った。

「貴様が松永久秀か。」

「ええ。お初にお目にかかりまする。」

余裕綽々といった感じで、大殿を目の前に一切物怖じしない。
それをみた木下殿が苛々しているのか口を挟む。

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