樫の木の恋(上)
「用件を話してしまったら、さっさと押し返してしまいますでしょう?」
「なかなか話さないというのなら、今すぐ押し返そうとも思っておるがな。」
威圧感のある松永殿に、冷徹な雰囲気を全面に出しながら笑っている木下殿が話しているのを皆呆気に取られながら眺めていた。
しかし大殿だけはそのやり取りを少し面白そうに眺めていた。
「遠方からはるばる足を運んだというのに酷いお方じゃ。しかしなかなか面白いですな秀吉殿は。どうです?我が松永家に仕えませぬか?家老としてお迎えしますよ。」
「はっ笑わせてくれる。松永家の家老など、織田家の足軽組頭程度じゃろ?待遇が下がるではないか。」
堂々と憎まれ口を叩く木下殿。少し松永殿が顔を歪めたように見えたがすぐに余裕綽々といった態度に治してきた。
「なかなかに肝の座った憎まれ口ですな。その精悍な顔立ちにはあまり似合いませぬ。もっと悪人面のほうがお似合いでしょうに。」
「なんだまた僻みか?女中にちやほやされないからと、そう何度もわしに当たるのはよしてくれぬか。そんなことよりはよう用件を言え。五つ数える間に言わねばお帰り願おう。」
人をあからさまに馬鹿にしたような顔をして、口角をにやっと上げ笑う木下殿に余裕綽々といった雰囲気を出していた松永殿の顔が徐々に崩れていた。