樫の木の恋(上)
「仕方ありませぬなぁ。」
「一つ、二つ、みっ」
「言います言います。いまや織田家の勢いは飛ぶ鳥を落とす勢い。松永家は織田家と対立したくありませんので、降伏し従属しようというわけです。」
そう言われてようやく大殿が口を出した。
「貴様のような奴を従えてはいつ寝首をかきにくることやら。」
「ふはははっ!そんな事するわけないじゃないですか。織田家が今の勢いを失わない限り、裏切りなどしませんよ。」
相手が大殿に変わって先程まで崩れていた表情が元通りになってきていた。それを見て、間髪いれずに木下殿が口を出す。
「ふんっどうだか。女中にちやほやされずにわしに当たるような奴だ。織田家の勢いに嫉妬して寝首をかきにくるやもしれんじゃろう?」
そう松永殿は言われて思いっきり顔を歪めた。おそらく今松永殿の敵意は大殿ではなく木下殿に向けられている。
「ふっ秀吉。あまり苛めてやるな。まぁ良い。松永家を支配下に置いてやろう。義昭殿は反対するだろうが、納得してもらう。」
「さすが、信長殿。松永家織田家のため尽力を尽くしまする。」
「殿良いのですか?」
「ああ構わん。」
「まぁ松永家などいつでも潰せますしね。」
そう言った木下殿の小馬鹿にしたような顔を、松永殿は鬼のような顔で睨み付けていた。
松永殿は岐阜城を去った。帰り際に物凄く憎らしく木下殿を見てから。