樫の木の恋(上)
信長は自分の部屋へと秀吉を招き入れた。しかしその顔はどこまでも険しく、さすがの秀吉も肩を縮ませていた。
「色男…のぉ。」
信長が言葉を発した時、緊張している秀吉の肩が大きく跳ねる。そんな秀吉のすぐ目の前に腰を降ろした信長は腕を組み不機嫌さを全面に出していた。
「半兵衛と口付けなどしおって。なんじゃ色男と口付け出来て嬉しいか?」
あからさまに理不尽。あれは筆頭家老に強要され仕方がなく口付けをしたのだと信長も理解はしていた。
しかし、理解と感情は別物。
それに半兵衛と秀吉は、久秀が来た後から今日までの数日は気まずそうな雰囲気ではあったが、それより以前は仲睦まじい関係だった。
半兵衛は確実に秀吉が好きだ。
そして徐々に秀吉がそれに惹かれているのも信長は分かっていた。
半兵衛にとられるのではという危機感が信長の心を苛立たせていた。
「嬉しくなど…」
「ふんっどうだか。」
「……。」
秀吉は信長が発する雰囲気に気圧され何も言葉に出来なかった。やはり信長が本気で怒ると怖い。
「秀吉…お前はわしのものじゃ。それは心得ておろう?」
「も、勿論です!大殿に救われたこの身…大殿に捧げるのが…」
「そういうのはいい。だが最近、半兵衛にうつつを抜かしておるようじゃな?」
信長の問いに、この間光秀との約束を交わされた後、半兵衛と抱擁をし、あまつさえ口付けを受け入れた事を秀吉は思い出していた。
信長は勘が鋭い。誤魔化したところで責め立てられるのが目に見えている。
なんて答えていいか分からず秀吉が黙っていると、信長は怒りに任せ秀吉を押し倒した。
「……!大殿…。」
「秀吉…半兵衛の事をどう思っている?好きなのか。」
不機嫌の中に切なさが見えた信長の顔に、秀吉は辛くなっていた。
「私は、大殿が…好きです…。」
たどたどしく、だが目をしっかり見つめながら信長へ愛を告げる。
信長は少しため息をつき、ゆっくりと口付けをした。
結局半兵衛のことをどう思っているか聞けなかった事に不本意ではあったが、秀吉の心がまだ己にあることに少しだけ安堵していた。
「秀吉には、わしのものだともう一度教え込む必要があるようだな……。」
首元に落とされた口付けは、秀吉の体を跳ねさせる。
「んっ……、あっ…大…殿…!」
秀吉の着物を少しずらし、信長が優しく唇を這わせる。
そして右手で着物の紐をとり、秀吉の太ももの間へと手を忍ばせる。
「だ、駄目です…!」
しかしそれは聞き入れられず無言のまま信長は秀吉の首元に舌でなぞる。その間にも右手はゆっくりと太ももを撫でていた。
「はぁ…あっ…!」
「ふっ今日は朝まで寝かさんからな。」