樫の木の恋(上)
「信長殿、それがしの配下に調べさせたのですが、浅井家に何やら不穏な動きをしております。」
突如現れたのは松永久秀殿だった。松永殿のところにも隊を出すよう要請していたのだ。
隊はもうすでに金ヶ崎目前に迫っているところだった。
「なんだ、久秀か。ふんっそんなわけなかろう?浅井長政の嫁は我が妹、市じゃ。要は長政は義弟なのじゃぞ。裏切るわけないではないか。この忙しい時にそのような戯れ言を申すな。」
「しかし…」
「大殿!」
松永殿の申し出を受け流そうとしていたとき、木下殿が慌てて大殿の元へと駆け込んできた。
「それは本当にございます!長政殿は朝倉家討伐を阻止するため、我々を挟み撃ちにする模様です!」
「むっ!秀吉まで…ならば本当だというのか。まさか長政が裏切るとは…。いやしかし…そんなこと…。」
少し悲しげに、恐らくお市の方様のことを案じているのだろう。そんな大殿を木下殿が現実に引き戻す。
「大殿!急いで金ヶ崎城を落としましょう!その間にそれがしが撤退の道を作りまする!」
ばっと皆の視線を集める木下殿。情報によるとかなりの兵を出してきた浅井家から撤退の道を作るなど至難の技。それが皆分かっているからこそ、木下殿の方を向いたのだった。