樫の木の恋(上)
「木下秀吉!覚悟!」
ザクッ
浅井家と衝突し人が入り乱れてきたとき、こっそり後ろから馬に乗る木下殿を狙い斬りかかってくる兵がいた。
そんなのとうに気づいていた木下殿は、振り返り様に斬り捨て即座に態勢を立て直す。
「ふんっ!そんななまくらでは切れんよ。」
その間にも弓矢を払いながら、兵達に指令をだしている。
鬼神の如く敵を薙ぎたおし周りに目を配り、統制をとっている木下殿はやはり天才なのだと感じていた。
明智殿の方もあまり損害が出ていないようで、人数の不利をものともせず戦っていた。
「半兵衛!後ろ!」
自分の隊は木下殿の隊の近くで戦っていた。
しかしいくら近いとは言え、こんなに近くで声が聞こえるなどおかしい。
声の方へ振り替えると木下殿が馬から飛び降り、自分の方へと飛んできていた。
その後ろに刀を振り下ろそうとする浅井家の兵が見えた。
ザッ
「ぐっ!ちっ!」
木下殿が痛そうな顔をした瞬間、舌打ちをしながら振り返り様に切ってきた兵を斬り捨てた。
「木下殿!すみませぬ!大丈夫ですか!」
「別に大丈夫じゃ。少し肩を切られただけじゃ。」
そう冷静に答える木下殿を見ると、肩から大量の血が流れていた。
「血がたくさん流れているでは…」
「そんなことはどうでもいい。」
「何故それがしなどを庇…」
「うるさい!くどいわ!大丈夫だと言っておろう。」
そう木下殿に言われ、後悔の念にかられながらも周りの兵を倒していった。
木下殿が少しでも楽になれるよう、木下殿の隊が前へ出ることにならぬよう気を配りながら戦っていた。
しばらくすると浅井家の猛攻は少し収まってきていた。
「大殿達は無事撤退出来た模様です!」
そう遣いが伝えに来て、木下殿が撤退の命令を出す。
少し顔が青くなっている木下殿はそれでも下がりながらも毅然とした態度で対応している。