樫の木の恋(上)
「被害は?」
「明智殿の隊と合わせても1500程度の損害にございます!」
おそらくもっと被害が出るはずの戦いに、これだけ被害が少なかったのは恐らく明智殿と木下殿の統制のおかげだろう。
二人ともその都度指示を細かく出し、連携をとりながら固まって戦ったのが項を労した。
「そうか。損害が少なくて良かった。皆のものすまなかったな。このような戦いをさせて。」
岐阜城へ帰りがてら木下殿は兵達の労をねぎらっていた。その顔はまだまだ青く、手当てをするよう言ったのにも関わらず帰るのが先だと聞かない。
早く帰って皆を休ませたいのだろう。
「秀吉、顔が真っ青ではないか。」
いつの間にか明智殿が馬を走らせ近づいていた。黒い木下殿の甲冑と布のせいで乾いて赤黒くなった血は見えなかったのだろう。
切られたことに気づいていない。
「ああ、少し切られましてな。まぁ別に対した事はないのですが。」
「……怪我をしたのか?」
「少しですよ。」
明智殿は少し考え込みながら黙ってしまった。状況を話そうとしない木下殿に無理に聞こうとはしなかった。
しかし悟ったのか、それとも自分が木下殿を是が非でも御守りするべきだろうという非難なのか、明智殿がひと睨みしてから自らの隊へと帰っていった。