樫の木の恋(上)


岐阜城へと帰り兵全員に解散の意と、怪我をしたものは城にて手当てせよと伝え、自分と木下殿と明智殿の三人で大殿への報告に向かっていた。

「木下殿!先に手当てを…」

「大丈夫だ。大殿に報告を終わらせたら手当てをする。」

そう言って聞かない木下殿。しかしまだ血は止まっていないようで応急措置で巻いた手拭いもすぐに赤く染まっている。

「秀吉、少しではないではないか。」

「大丈夫ですよ。」

平然と明智殿の問いに答える木下殿は、表情には出さなくとも顔色の悪さで大丈夫では無いとわかる。
ようやく大広間へとつき、大殿が顔を上げる。

「おお!秀吉、光秀!此度は良くやっ…秀吉、その怪我はなんだ?お前ほどの手練れが…」

大殿が厳しい顔をして怪我を見ている。手拭いの色から見て相当な怪我をしているのだと察したのだろう。

「これは、それがしを…」

「半兵衛!余計な口を挟むな。いやぁ油断してしまいまして。怪我自体はたいしたことありませぬ。」

「……そうか、お主らの顔を見れて安心した。秀吉、下がって早く手当てをしろ。ご苦労じゃったな。」

きっと大殿は気づいた。木下殿がそのような油断をするなど考えられない。自分を庇ったのだと気づいている。
しかしそれを追及せず、早々に返したのだ。



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