樫の木の恋(上)
なかなかの手練れのように感じていた刺客も、木下殿にかかれば一瞬のうちに皆倒れていた。しかしすべて峰打ち。織田家にはこのような凄い人がいるとは。
「先程の話!嘘じゃなかろうな?」
長屋を出て少し行ったところで話していた。興奮気味に話す木下殿は先程の涼やかに敵を倒していく顔からは想像出来ないほど、嬉しそうに笑っていた。
「ええ。あのような事をされてまで斉藤家に尽くす義理もないですし、織田家に興味が湧いてきました。」
「……そうか。そうか良かった。ならば早く大殿に報告せねば!清洲に向かおう竹中殿。」
嬉しそうに笑顔を向ける木下殿。しかしどうしても気になっている事があった。
考え事をしていると木下殿は心配してくれたのか、自分の顔を覗き込むように見てくる。
そんな木下殿の着物の袖をつかんで引っ張る。
不意を突かれた木下殿は思いっきり後ろに倒れ混み、その間に木下殿の上へと乗る。
一瞬の事でさすがに手練れの木下殿もついてはこられなかった。
「竹中殿!?何をするのじゃ。」
一瞬慌てた木下殿だったが、すぐに顔をしかめ冷たい目で見てくる。
「先程の仕返しです。本当の事を教えてくれるまで退きません。」
先程自分の上に乗っていた事を思い出したのか、諦めるように息を一つついて、自分の方を見た。
「なんじゃ?何でも答えよう。」
自分がずっと思っていた疑問はほとんど確信に変わっていた。
「木下殿…。木下殿は、女子ですね?」
目を見張り、言葉が出ないのか自分の顔を見つめてくる木下殿。
「そ、そんな訳無かろう!竹中殿はおかしな事を申すなぁ!」
それまで冷たい顔をしていたのにも関わらず、女子というと目をそらし口ごもる木下殿。そんな顔をされると少し苛めてみたくなる。
「では、失礼ですが胸を触りますよ?」
「なっ!」
みるみる顔を赤らめ恥じらうように顔を背ける木下殿。
そんな顔を可愛らしいと感じていた。
「…いいんですか?」
「…あるわけ…なかろう?…好きに…せい。」
たどたどしく、自分が触らないと思っているのかそう言って強がっていた。もう一押しすれば木下殿は白状しそうだ。
「お認めにならないつもりですね?でしたら…仕方ありません…。」
そう言って片手を木下殿の着物の上から胸を触ろうとする。その瞬間木下殿が声をあげた。
「た、頼む!…やめてくれ…。認める…から。」
その瞬間木下殿の上から退き、木下殿の上体を起こした。