樫の木の恋(上)
「木下殿はそれがしがお嫌いなのですね…。」
「えっ…ち、違う!そういう意味で言った訳では…」
「しかし“もう知らん”と言ったではありませんか。」
「それはその…半兵衛が変なことを言うから…。」
少し目を潤ませている木下殿は困り果てながら言い訳をしている。このお方は気づいていないのだろうな。己が今どれだけ可愛い顔をしているのかを。
「ふふっ木下殿…可愛いです。」
「あまり…からかうな…。」
「からかってなどいませんって…。」
そう言ってから少し体を離し、木下殿の顎を持ち上げる。この間飲みの席にて、木下殿にされた時のように。
「この間の仕返しです。」
「あっあれは仕方なく…」
木下殿が言い終わる前に唇をつける。嫌がられなかった事に少し安堵しながら、するりと舌を忍ばせる。
少し爽やかな甘い香りがする。
「……ん…ふぁ……」
木下殿の漏れる色っぽい吐息に気持ちが抑えられなくなる。少し長めに口付けをしてしまい、苦しかったのか潤んだ瞳を向ける木下殿に思わずもう一度してしまった。
「半兵衛…もう息が…」
「ふふっすみませぬ。つい可愛らしくて。」
「もう…」
荒くなった息を整えながら木下殿は頭を自分の胸に付けてくる。
そんな木下殿が可愛くて、もう一度だけ強く抱き締めた。
今がずっと続いてくれるなら…そう思わず願ってしまった。