樫の木の恋(上)
その後木下殿は3日程寝込んでいた。
傷のせいなのか、それとも切られて弱っていたからなのかは分からなかったが熱が出てしまっていた。
ビリビリと痛むのか寝ながら傷口を痛がる木下殿は本当に申し訳ない気持ちで一杯になる。
手拭いを何度も代えながら、三日間仕事の合間に木下殿を看病する。
コンコン
誰だろうと疑問に思いながら、戸を開けるとそこには予期せぬ来客がやってきていた。
「と、徳川殿!?」
お供を5人ほど連れ徳川家康殿が目の前に立っていた。
大柄なその体に柔和に笑う顔は、先日の戦で見せた顔とは違う。
「いきなりの訪問すまぬな。信長殿と少し話があって来たのだが、その際に秀吉が切られて寝込んでいると聞いてな。見舞いに来たのだ。」
一国のましてや同盟国とはいえ、他国の大名が家老でもない一人の部将のために見舞いに来たのだ。
徳川殿と5人のお供を招き入れ、居間へと通す。
お茶を出そうとしたが、すぐに帰るというので五人のお供を居間に残し徳川殿を木下殿の部屋へと案内した。
「む……半兵衛…すまぬな…。いやぁだいぶ良くなってきた。」
襖を開けると木下殿は起きていたのか、傷口を抑えながら寝ている。しかし顔から冷や汗のようなものが無くなり、顔に血の気が戻っていた。
「よう。秀吉。怪我の具合良くなってきたようだな。」
「えっ…?えっ徳川殿!?」
徳川殿を見て驚いたのか、目を見開き体を起こそうとする。しかし徳川殿が手で遮る。
「いい、いい。起きるな。身体に障る。」
「し、しかし徳川殿に失礼があっては、それがしの首が飛びまする。」
「ははは!大丈夫じゃよ。無礼講で構わん。」
木下殿は申し訳無さそうにしながらも、ゆっくりと体を寝かせ息を吐く。徳川殿は木下殿の布団の傍らに座り、自分は襖の目の前に腰を下ろした。
「それにしても出生したのぉ。今川家にいたときは小者の中でも下っ端だったというのに。」
「そういう徳川殿は今や一国の大名ではありませぬか。」
二人は懐かしそうに話していた。ふと、疑問に思ったのだが徳川殿は木下殿が女だということを知っているのだろうか。
いやしかし、昔からの知り合いという蜂須賀正勝殿ですら知らないのだ。徳川殿も知らないのかもしれない。
「それにしても今川家から出た際、秀吉を家臣にしようと思っていたのだがなぁ。まぁすぐに信長殿と同盟を結んだからの、叶わなかったが…。どうじゃ今からでも…」
「あはは!徳川殿、冗談がキツいですぞ。そのようなことするわけないではないですか。」
「じゃろうな。まぁわしも信長殿に恨まれたくはないしの。」
木下殿が元気になってきて、笑えるくらいに回復したことに一安心していた。
徳川殿が来てくれたことも良かったのかもしれない。
仲の良さそうな二人を眺めながらほっと息を吐く。