樫の木の恋(上)
「そうじゃ、秀吉。気になっていたのだが、半兵衛とはどういう関係なのじゃ?」
その徳川殿の言葉に思わず、驚き目を見開いてしまう。
しかし木下殿は少し驚いただけで、少しだけ恥ずかしそうに頭をかく。
徳川殿は木下殿が女だと知っているのか?
「いや、別に何もないですよ。」
「なんじゃ仲が良さそうじゃったから、てっきり付き合っておるのかと。」
少しがっかりした様子を見せる徳川殿。だが諦めないといった感じで再び問いただす。
「しかし口付けぐらいはしたのだろう?」
にやにやしながら問う徳川殿は悪い顔になっているのだろう。後ろから見ていて分からないがそんな気がして仕方がない。
「し、してませぬ!」
「ほう?慌てているところを見ると怪しいな?どうじゃ半兵衛、秀吉はいい女じゃろう?」
「木下殿と…そのようなことは……。」
こちらへと振り返りながら徳川殿が問う。
目をそらしながら答えると徳川殿が大きく笑っていた。
「まぁな、若い二人じゃからそういうことがあっても別に不思議に思わぬぞ。まぁ苦労はするだろうがな。」
「ですから…」
「お主の事じゃから、どうせ微妙な関係なのじゃろ?半兵衛からは強めに迫ることも出来んじゃろうしな。女なのに生き死にも近くにあるんじゃ。半兵衛は不安じゃろうよ。」
正直図星だったために、徳川殿に何も言えないでいた。
木下殿が何を思ったのかは分からないが、黙ったままでいた。
「ははっやはりそういう関係じゃったか。」
「なっ…もしや謀りましたな!」
「はてなんの事やら。さて、秀吉が大丈夫だということも分かったし、そろそろ帰るか。見送りはいいから秀吉、寝ているんじゃぞ。」
木下殿がお礼をいうと、徳川殿は小さく笑った。