樫の木の恋(上)



「それと秀吉、半兵衛と仲良くな。」

そう言って部屋から出ていった徳川殿についていった。
徳川殿は背はそこまで変わらないというのに、なんだか大きく見える。
そんな徳川殿が廊下で振り返り話しかけてきた。

「のぉ半兵衛。秀吉を説得して結婚をしてやってくれぬか。」

「えっ…」

突拍子もないその質問に思わず思考が停止してしまう。

「女子がこうして武士をやっているというのは凄いと思うし、優秀な秀吉はやはり織田家に必要なのじゃろう。しかし、やはり女子じゃ。危険な事などいつまでもさせとうない。じゃから結婚して武士を辞めさせてやってくれぬか…?」

心配そうな顔でこちらを見る徳川殿。本当に心からそう願っているのだろう。
しかし自分の答えは決まっていた。

「それがしでは、木下殿は止まりませぬよ。役不足にございます。」

「そんなことは…」

「それがしは命をとしても木下殿をお守りするだけにございます。」

そう真っ直ぐ述べると徳川殿はため息をつき、小さく笑った。

「お主らは似た者同士じゃな。」

その意味が分からなくて首をかしげるが、それを見た徳川殿は笑って帰っていった。

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