樫の木の恋(上)
木下殿は熱が引きすぐに登城すると、金ヶ崎の退き口での働きのお陰で家老に昇進した。
ちなみに明智殿が城主に任命され城を出ていったのだった。口付けの約束は無くなっているようだった。
「秀吉様ぁ。」
今日は浅井家を攻めることについて会議が設けられたので出席していた。五日後に攻めることになり会議は終わった。
それが終わり、木下殿と二人で城の中を歩いていると二人の女中が駆け寄ってきた。
一人はこの間の飲みの席で木下殿と口付けをした女子だった。
「なんじゃ?」
「いえ、そのぉ。お怪我の方は…」
「あぁもう問題ない。」
木下殿も女子なのに、女子に色目を使われている光景は少し可笑しかった。
二人が会話をしているのを眺めていると、もう一人の女中に話しかけられた。
「重治様。」
「…ん?半兵衛で構わないが…。」
重治というのは、本名だが通称は半兵衛。久々に重治と呼ばれて反応が遅れてしまう。呼ばれなれてないと咄嗟には反応出来ないものなのだなと思わされた。
半兵衛で構わないと言うと女中は嬉しそうに笑いながら話を続ける。
「では、半兵衛様。半兵衛様は意中のお人はいらっしゃらないのですか?」
「いきなりな質問だな…。」
「いらっしゃるのですか?」
少し押しの強いこの子にどう答えるべきか悩んでいた。木下殿の事は好きだが、いると答えて追及されるのは面倒だ。
「いや、いない。」
「そうなのですか!良かったぁ。」
「……?良かった?」
ちらっと女中と話していた木下殿がこちらを見て、すぐに話しに戻っていった。
「半兵衛様に意中の方がいなくて、良かったなと。私がなれる可能性もあるかなぁ…なんて。」
そう少し顔を赤らめながら小声で言葉を紡いでいる。
顔も可愛く、己がどうすれば可愛く魅せられるか分かっている女子。
「他にも男はたくさんおろう?」
「半兵衛様が良いのです。」
そう木下殿が後ろを向いてるときに小声で言われる。少し目を潤ませ可愛く小首を傾げながら、裾を掴んでくる。
「今度お茶でもご一緒させてください。」
そう言わたとき、木下殿の方も話が終わったのか女中二人は去っていった。
やはりいくら可愛く魅せられても、やはり木下殿が良いのだなと思っていた。
正直今の顔を木下殿がやってくれないだろうかと頭を悩ませるほどだった。