樫の木の恋(上)
「半兵衛は女子に人気じゃのぉ。」
「いや、木下殿の方が人気があるではありませぬか。」
城を歩きながら木下殿が話しかける。
「先程言い寄られていたではないか。」
木下殿は廊下を歩きながらなので顔が見えない。何をどう思いそう口にしたのかが分からなかった。
「半兵衛もまんざらでもなかったのじゃろう?」
「はい?」
後ろを振り返りながら、少し笑顔を見せる。このお方は何を言っているのだろうか。そんな爽やかに笑顔を見せられても何故か胸の当たりがざわついている。
「可愛らしい女子じゃったなぁ。半兵衛も嬉しそうじゃったし、良いんでないか?」
良い?何が良いのだろうか?
「木下殿…どうされたのですか?」
「どうもせんぞ?…半兵衛に良さげな女子が出来て嬉しいだけじゃ。」
「良さげって…。木下殿それがしは…」
それより先はここでは言えない。そう思いとどまると、木下殿はもう一度爽やかに笑った。
その時小者が大殿が呼んでいるといつもの伝達をしてから去っていった。
「では、行ってくる。」
「木下殿、先程の…」
「半兵衛。わしは大殿の元へと行く。」
何故そうはっきりと申したのかは分からないが、木下殿は有無を言わせぬ雰囲気を醸し出し去っていった。
その後ろ姿は何故か少し寂しそうに見えた。