樫の木の恋(上)
「むぅ…。そういえば家の空きが無かったな…。仕方がない、わしの家は一人で入るには広いし、竹中殿しばらく我が家で辛抱してはくれぬか?」
振り返って申し訳無さそうに笑う木下殿。きっと今までにもそういうことはあったのだろう。自然にそう言われた。
しかし今までとは違う。
今まではお互い男という認識で相手は住んでいたのだろうが、今回は女と分かっていながら住むのだ。
だが木下殿はそんなことには一切気付かず、自分を家へと招き入れる。
「竹中殿の部屋は…。」
そう言えば一つ気になっていた事があった。
「何故、いつまでも竹中殿なんです?もう配下なのですから半兵衛で構いませんのに。」
「えっ…じゃ、じゃあ半兵衛…。」
恥ずかしがりながら口にする木下殿。このお方は気づいているのだろうか。ずっと女の方が出てしまっていることに。
そんな顔をしながら自分の名を呼ばれたら襲ってしまいたくなることに。
「それにしても女の私の配下で良かったのか?今ならまだ大殿の直臣になれるというのに。」
自分の布団を押し入れから出してくれながら不安そうに聞いてくる。
「男も女も関係ありませんよ。ただ…。」
「ただ…?」
「ただ、関係無いと思いつつも木下殿に惹かれてるので一概に関係無くはないですね。」
そうさらっというと木下殿の顔は一気に赤く染まっていった。言葉が出ないのだろう、口を動かしてるのに発せられていない。
「竹中殿は…!すぐからかうのだから…!」
精一杯出した声がそれだった。顔が赤いのを隠すためか押し入れに俯きながら向かっている。
「上司をからかうなんてしませんよ。本当の事を言ったまでです。それと…」
押し入れから枕を出そうとしていた木下殿が振り返った時、目の前に立つと驚いて顔を上げた木下殿の真っ赤な頬が間近で見れた。