未知の世界4
トントンッ
幸治さんに了承を得て、私は良子ちゃんの部屋を訪れた。
早川先生はカルテの整理をしたいということで、私一人で。
「入るねぇ。」
私が部屋を開けると、良子ちゃんはベッドに座り、外を眺めていた。
私の顔を見るなり、驚いているみたい。
「え?」
そうなるよね。
「あれ?医者だったの?」
「う~ん、今はそうだけど、あの時は患者で・・・・・・。医大生だった。
一昨日この病院で働き始めたの。
よろしくね。」
納得したような、でもまだ不思議そうな顔をしている良子ちゃん。
「体調はどう?」
「・・・・・・。」
再び外を見つめる良子ちゃんは、私の質問には答えようとしない。
「病院は退屈でしょ?
自分の体は自分が一番知ってるのに、他人である医者にあーしろだの、こうしろだの言われて。
嫌になってるんじゃない?」
図星なのか、一瞬ビクッと体が動く。
「私もね、良子ちゃんと同じころに、病院にいたからよく分かるよ。
もう自分をコントロールできなくって、外にまで逃げてたし。」
「え?外に?」
食いついた。
「そう。
あの頃は自分が一人、取り残されたような気がして、この世から消えてしまいたいとも思ったよ。」
「・・・・・・私も。」
「ん?」
「私も・・・・・・、消えたい。
毎日そう思うけど、そんな勇気ない。
いつか死ぬもんだと思ってたのに、
知らない間に手術されて、生きなきゃならないのかって・・・・・・。」
ようやくこちらを向きはじめた。
「こんな気持ち、誰も分かってくれないって思うと、なんか悲しくなってくるよね。
口では言いにくいし。
お医者さんも看護師さんも、誰も悪くないのに。
当たりたくなる。」
そう私が言うと、
「フフッ」
良子ちゃんが小さく笑う。
「可笑しい。」
「何が?」
「医者がそんなこというんだもん。」
「ま、まぁ、まだ医者をやって三日目だしっ!!!
それに、良子ちゃんと同じ気持ちでいた時期の方が長いから。」
「先生もなかなか壮絶な人生だったんだね・・・・・・。」
あ、初めて『先生』って呼ばれた。
私はそう呼ばれたことに、嬉しくて浮足立った。
「ん?どうしたの?」
良子ちゃんが聞いてくる。
「初めて『先生』って呼ばれて、嬉しいのっ!」
そういうと、
「じゃあもう言わなぁい!」
突然意地悪なことを言う。
「名前は?」
「佐藤かなだよ。」
「じゃあかなちゃんだね!」
「え!かなちゃん!?
せめてかな先生にしてよー!」
まさか、ちゃん付け!?
「かなちゃんっ!!!」
すっかり楽しんでる・・・・・・。
まぁいいか。
私はそれから良子ちゃんと少し話をして、医局に戻った。