未知の世界4
逃げれるものなら逃げたいと思うけど、ここは病院でないから逃げられない。
お父さんの診察、長いという、念入り。
恥ずかしいとかじゃなくて、長すぎて静か過ぎるから。
それもそれで緊張するし・・・・・・。
「かなちゃん、ベッドに横になろうか。」
「はい・・・・・・。」
渋々、ベッドに仰向けになる。
既に医者の顔をしているお父さん。
服を捲り上げて胸を出す。
「まだ傷は痛む?」
軽くガーゼを剥がして傷口を確認する。
「傷口はすごく綺麗だね。
見てみた?」
とお父さん。
私は左右に顔を振る。
「手術はほとんど幸治がやったんだ。
心臓の内部は僕だけど、切るところから縫うところまで、見た目の傷を君が気にするだろうからって。」
え?幸治さんが?
「愛されてるな。」
そういわれ、私は顔が真っ赤だと感じた。
「幸治は幼い頃の君に会って、ずっと誰とも恋することなく、君を想っていたんじゃないかな?
きっと学生時代なんかに、彼女の一人や二人はいただろうが、それはただの形だけのことだと思う。
こんなに誰かのために尽くしている幸治は、初めて見た。
だから、君に再会したとき、お母さんも僕も、幸治は君のことをずっと昔から心のどこかで想い続けていたんだろうと思った。
普通医者にでもなれば、一人や二人、浮いた話を聞くもんだけどね。
今の仕事について、同じ世界に僕がいるけど、そういう話は1度も聞いたことがないから。」
そうなんだ。
「見た目、誰でも好きになりそうなイケメンだから、私はいろんな女性と付き合ってきたんだと思ってました。
意外ですね。」
「でしょ。まぁ、それだけ昔からかなちゃんは、自分の知らないところで大切に想われてたってことだよ。」
そんな話をお父さんから聞いて、なんだか心が温かくなった。
「さぁ、音を聞かせてね。心臓と肺も。」
「え?喘息の方まで!?」
お父さんの言葉に驚いた私は、顔を上げてお父さんを見た。
「もちろんだよ。僕は医者だよ~。心臓しか診れない訳じゃないよ。
それに、心臓の研究をして心臓外科医でもあるけど、僕は元々呼吸器内科でも小児科でもどちらでも働いてたんだよ。
厳密にいうと、循環器内科もね。
昔の病院は、内科っていうくくりでしかなくて、全て診てたんだよ。
外科医の人数も少なくて、オペすることもよくあって。
それで心臓外科も勉強して、今ではそちらの研究をしているんだ。
君の主治医は僕の愛弟子みたいなもんだよ。」
え!?進藤先生?
と驚いた顔をすると、お父さんは、静かに診察を始めた。
聴診器は幸治さんと同じように、手で温めてから。