未知の世界4
「かな、大丈夫か?」
さっきまで進藤先生の座っていた椅子に幸治さんが座る。
「大丈夫な訳、
ないよ。」
幸治さんの顔を見ないで答える。
「どうして・・・・・・。」
「ん?」
「どうして、幸治さんは教えてくれなかったの?」
「何を?」
「石川先生のこと・・・・・・
手術のこと。」
「それか。
親父からその話を聞いたのは、俺達の結婚式で帰国した時だ。」
え?そんな前に。
「親父はかなの心臓を手術した時から、そう考えていたらしい。
この先ずっとかなの心臓がもつとは思ってなかったみたいだ。」
そんな・・・・・・。お父さんが手術してくれたのに。
「前の手術では、かなの体力を見ても移植は厳しくて。
それに、手術前の検査結果での心臓の状態を見ても、移植まではいかないだろうって判断してた。
けど、実際手術してみると、心臓の大きさはかなり小さく、弱っていることも分かったんだ。」
「そんな・・・・・・、
だって手術は成功したんじゃ!?」
「成功は成功だけど、その手術で心臓が強くなったわけではないんだ。
あの時の症状は治った。あのままいけば完治ということになるはずだった。
あれから、違う心臓病になったことで、今の心臓ではかなの体は耐え切れなくなってるんだ・・・・・・。」
「なんでよ!
お父さんは世界的に有名な医者でしょ!?
どうして?」
お父さんは決して悪くない。幸治さんだって。
それなのに、誰かに当たりたい気持ちはおさまらなかった。
「そうだ。親父は世界的にも有名な心臓外科医で小児科医でもあって、研究者でもある人だ。
だけどな、かな。
親父も人間だ。
神じゃない。
全ての病気を治せる訳ではないんだよ。
医者のお前ならわかるだろ?」
「そんなのわかんないよ!」
分かってるけど、分かりたくない。
そんな気持ちから、言葉が出た。
「あんなに痛い思いして手術受けたのに・・・・・・、
あれは無駄だったのよ!」
「そんなことない!
そんなことを言うな!」
私の言葉で幸治さんを怒らせてしまった。
「かな・・・・・・、お前だって医者でありながら人間だ。
その証拠に、自分の体のことを隠したり、薬だってまともに飲まない。
医師なら食事をとることの大切さだって分かってるだろ?
なのに、どうして?
それは人間だからだろ?医者である前に。」
それ以上、言葉が出てこなかった。
代わりに大粒の涙がパジャマにこぼれ落ちた。