未知の世界4
え?どういうこと?
「人を治すのが、医者です。」
「そうだよね。
その治す医者自身が、自分の体を治したいと思わなければ、患者さんの治したいという気持ちも分からない。
患者さんの治したいって思う気持ちも分からなければ、患者さんに治そうと思う気持ちにさえ、させれないんだ。」
その通り…
「投げやりになって、このままでいいと思ったら、もう二度と白衣は着れない。
かなちゃんは、どうして小児科を選んだの?」
「………研修の時。
産婦人科で産まれた赤ちゃんを目にして、
子供たちの将来を自分の手で輝くものにしたいって……
そう思って、小児科医を目指しました。」
「これからかなちゃん一人が、何人の子供たちを救うのか。
もしかなちゃんが医者をつづけなかったら、逆に何人の子供たちの未来が失われるのか。
かなちゃん、君はもう人の人生を左右させるほど、責任のある仕事に就いたんだ。」
「………。」
「何がそんなにかなちゃんを思いとどまらせてるの?」
私に…
子供の心臓を…
そんなこと…できないよ。
「心臓移植なんて…」
「そうだ、子供の心臓だ。」
「医者に、しかも小児科医になりたいのに。
子供の心臓を待つなんてできないし、
そんな…
待ちたくないです。」
先生に言われてることが、ごもっともすぎて、顔を上げれない。
「そうだよな。
かなちゃん、心臓を提供する子供は、自分の心臓を提供するために死ぬのか?
それは違うだろ?
どうしても生きられないから、せめて心臓だけでも生きて欲しいと願って提供するんだ。
心臓移植を受けたい子供たちは何人もいる。
そして、移植を待たずに亡くなる命もたくさんあるんだ。
君が優先的に手術できる訳ではない。
いつ手術できるかわからないけど、いつか手術して今度は君が、子供たちを救わかなければならないんだ。
そして…
その亡くなっていく子供の心臓と一緒に、君はその子の人生も生きなきゃならないんだ。」
「……。」
返す言葉がない。
私が…
子供の心臓を、その子の代わりに心臓と共に生きる…。
進藤先生はそれ以上言葉を発することをせず、少ししてから部屋を後にした。