未知の世界4
「なんか良いことでもあったのか?」
「ヒィッ!!!」
振り返ると石川先生がベッド沿の椅子に腰掛けていた。
「な、なんでも、ありません!」
はぁはぁはぁ。驚いた…。っていうか、心臓に悪過ぎでしょ。いつの間に…。
完全に油断してた…。
「佐藤先生から聞いた。
検査が一通り終わったら、手術方針は話すから。」
表情一つ変えないで淡々と話す石川先生。
何を考えているのだろうか、この顔で小児科の子供達には意外と人気なんだから不思議…。
「分からんことあったら聞けよ。」
「はい…。」
何か他に言いたいのか、なかなか立とうとしない。
こうやって面と向かって話したのは、当直の夜の診察くらい…。
ここからどういう話をしたらいいのか。
「…悪かったな。」
「え!?」
「お前の体調のことは、聞いてはいたものの、詳しく知らないでコキ使って。
ここに来る前に、前回の手術内容は聞いていたんだが、ここまでの症状になっているとは知らず…。
苦しかったら言うだろうとしか思ってなかった。」
「い、いえ…。
そもそも私が何も言わなかったのがいけなかったので…。」
「まぁ、そうだな。」
あんら…。やっぱりそうだよね。
「これからっていう時に、どうしても持病に邪魔されたくなくて…。
1分、1秒でも新しいことを覚えたくて…。」
私がいけなかったんだ…。いろんなことに欲張ったから。
「まぁ、治ったら、また厳しくしてやるからな。」
ん?治ったら…?
「言ってなかったな。
アメリカでの勤務は終えて、これからこの病院で働くことになったから。」
「えっ!?」
ということは、石川先生が引き続き指導員…?
「そういう事。」
私の表情から汲み取ったのか、石川先生が答えた。
またあの忙しい毎日が、いつか訪れるのかぁ。
「だから、早く良くなるように、俺たちが全力を尽くすから。
お前は何の心配もするなっ。
とにかく、よく寝てよく食べて、おとなしくしてろ。」
そう言うなり、すぐに立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
石川先生って、何を考えているのか分からなかったけど、今話してなんだか分かった気もする…。
幸治さんにしても、進藤先生にしても、石川先生にしても…。
皆、ただ一つ共通して、
人の命を救うのに一生懸命なんだなぁ。
私もああいう医者になりたい…。