溺れる恋は藁をも掴む
 ーー華は言ったんだーー

 「香取君、
もっと、イケメンになってから言って!
今の香取君に言われても、痩せる気になんないんだわー」って。

 今でもその光景を覚えてる。




 笑った!


 『その返しは見事だ!!
三浦華!!』と思った瞬間だった。

 目には目を歯には歯をでいいんだ!


 そういう奴には同じ痛みを与えて、仕返しするくらいが丁度いい!


 あの人に、これくらいのファイトがあったらなって……

 あの人も、あいつに言われっぱなしじゃなく、これぐらいの反撃を食らわせられるくらい、知恵と勇気と強さと、そう言っても憎めないキャラクターであったのなら、どんなにか楽に生きれたか…………

 俺の見てきた景色に重ねて、そんな風に思ったんだ。


 三浦華の印象が、変わった瞬間だった。

 普段、能天気で人畜無害で平和そうに暮らしてるように見える奴ほど、実はいろいろ考えながら生きてる。

 コンプレックスを抱えて、そのコンプレックスを拭いきれない奴ほど、あらゆる知恵を絞って、いろんな場面を想定しながら、自分を守る術を身につけてんだよな?

 あの時、華がキレて、罵倒したのなら、俺もこんなにも鮮明に覚えてないだろう…


 華は穏やかに言ったんだ。

 キレそうで腸煮え繰り返る自分を抑えて、憎いであろう相手に、まるで子供が悪戯したのを咎める大人みたいに、敢えて優しく、明るいトーンで……

 周りの空気をちゃんと読んでたんだよな。

 言われた香取はチクリと痛い思いをしたはず…

 いい女だな……
三浦華。

 よく見かける、薄っぺらで自分の事ばっかりしか考えてない奴らより、ずっとお前は魅力的だよ!


 でもな……
もう少し痩せたら、お前、もっといい女になるな……

 そこが残念。
でも、お前はお前。

 それはそれでいいって、思ってたんだ…

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