溺れる恋は藁をも掴む
 家に帰って、華の書いたレポート用紙を眺めた。

 ノートの線上に綺麗な文字が並ぶ、丁寧に書かれたノート。

 大事なとこはマーカーを引いて分かりやすくしてあったり、時に赤字でテストに出るかも?
なんて書いてあったり……

 覚えておいて損はないって、《シュガーが言ったとこ》なんてのも書いてもあったな。

 
 シュガーってアダ名のついた、国語教師の佐藤。

20代後半の独身男。

 痩せていて、背が高く、ひょろっとしている。

目がギョロッとして見えるのが印象的だった。
その風貌からか、神経質にも見えた。

 テストや受験対策は、予め、統計なども取りながら分析などをしていて、重要なとこは、『ここ、覚えておいて、損はねーからな!!』って言う奴。

 教師になる前の大学生の時は、進学塾の講師のバイトをしていたらしいな。

 だから、俺たちにいつも危機感を含めた事を言った。


 「いい大学に入りたくて、入試に備えるのは当たり前。

 お前らと同じように頑張って、同じ大学を希望して、狙ってる奴が居る事を忘れんな!!

 大学なんて入ってしまえば、やりたい事が4年間も出来る。

 汗水垂らして、社会で働いてる同級生も居る中、学生で居られるんだ。

どうなりたいか?

 選ぶのはお前ら次第。

 卒業して働くのもいいが、大学や短大に進みながら、将来を決める時間を作るのも手だからな」って。


 シュガーの言っていた事は、口やかましく、
ウザくも感じたあの頃。

 でも、今なら‥‥‥

 あいつは教師って、自分の役目を全うしょうとしてる、いい奴なんだって思える。


 俺は取り敢えず、大学受験を考えた。


 あの頃は、何がしたいとか、将来はこんな仕事に就いてとか、答えが出なかった。

 やりたい事がなかったから、探す為だけに、大学進学を考えたよ。
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