溺れる恋は藁をも掴む
 親父の怒りが鎮まり、落ち着きを取り戻した頃………

 疲れきった母さんは、俺から柊を受け取ると、ギュッと柊を抱きしめて、『ごめんね』を繰り返した。

 ずっと泣いていた柊は、やっと安心出来る場所が戻ってきて、涙が徐々に止まってゆく。
ミルクを与える母の腕の中で、安心して眠りについた。


 ずっと見守る俺には、「あっくん(幼い時に母にそう呼ばれていた)有難うとうね。
 もう、大丈夫だからね」
そう言って、頭を撫でた。


 小さいながらに思ったんだ。
 
 ーーこの弱い母さんと柊を守らないとってーー


 だから、出来るだけ笑った。


 あの空気が怖かったから。
 あの空気がとても嫌だったから。
 あの空気の中に居る、俺たち家族は‥‥‥



 地獄から這い上がる術を知らず、ただ、闇雲にもがき、空回りばかりしていたのだから‥‥‥
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