溺れる恋は藁をも掴む
 少し早めに着いて、公園近くにあるコンビニのトイレを借りて、メイクを直した。


 アキに会える数分前、ドキドキが加速する。


 噴水の前に立つ。


 日はすっかり暮れて、空にまんまるの満月。

 月を眺めていたら、私の視線がアキを捉える。


 前髪を揺らし、少し小走りになるアキ。



 「お待たせ、華!
急いだけど、少し遅刻だな。
ごめん」

 「月を見ていたら、時間が気にならなかったよ!」

 「今日は綺麗な満月だな…」

 「そうね。
小さな頃は、あの満月にうさぎが住んでいて、餅つきをしているって信じていた」


 「あっ、それ、俺も!」

 顔を見合わせて笑った。

 「飯は食った?」

 「まだよ」

 「どんなものがいい?」

 「アキは?」

 「取り敢えず、お疲れ様の生ビールな気分なんだなー」

 「あっ、いいね!
それに枝豆」

 「じゃあ、居酒屋にでも行きますか?」

 「行きますか!」


 二人で並んで歩き出す。
満月が見守るように追ってくる。


 子供の頃は、足を止めながら、何度も月を眺めたものだけどね……



 あの日以来だね、アキ。


 ドキドキするよ。
また、会えて良かった。



 あっ、ダメダメ、そんな恋心は隠しておかないとね……





 赤提灯がぶら下がる、情緒のある居酒屋。
暖簾を潜り、これから大人のデートが始まる。

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