溺れる恋は藁をも掴む
 向かい合わせの席で、生ビールで乾杯をする。

 「アキ、お仕事お疲れ様です!」

 「華もお疲れさんね!」

 「ごめんね……
迷惑じゃなかった?」

 「いや、全然。
むしろ歓迎!
 今夜は誰かと乾杯したい気分だったから」

 「あら、何かいい事あったの?」

 「あったよ!」

 「どんな?」

 「仕事の話になるぞ?」

 「いいよ。
聞きたい!」

 「うん、なら話す。
保険の更新が間近な人が居たわけ」

「うんうん」

「まぁ、その人の保険がさ、古いタイプのもんでね、見直して貰いたかったんだよね。

 保険ってさ、何年かに一度は見直しておいた方が得する場合あんのよ。

 その人の生活の環境が変われば、当然、保険の内容も変わる。

 例えば、結婚したとか子供が生まれたとかね……

 ずっと口説いていた人となかなか会えなくてね。

 その人の奥さんに頼んで、やっと時間を作って貰ったわけよ。

 保険は結婚前の内容になっていてさ、受取人も奥さんになってなくてさ、万が一の事を考えたら、ご主人に見直して貰った方がいいって、伝えたんだよね。

 ご主人がかなり頑固で面倒臭がり屋だから、
俺にご主人を口説いて欲しいって、頼まれたんだ。

 それに今はコンプライアンスの問題もあるから、契約者以外の人が勝手に内容を変えるのは、ダメなんだよ。
 ーー例え、奥さんでもねーー

 で、今日なら主人が居るからって言われて出掛けたわけよ。

 まぁ、最初はさ、休みの日に保険屋の話なんて聞きたくないって顔をモロにされんのよ……」



 アキは一息つき、生ビールを飲んだ。









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