溺れる恋は藁をも掴む
 「華、あの時、ノート有り難うな!
 すげぇー助かったよ!

 勉強なんて、やる気もしなかったけど、華のノート見ていたらさ……
 このまんまじゃいけない。
悲しみに慕うより、現実って思えたよ」

 「あんな事くらいしか思い浮かばなかった。
掛ける言葉が見つからなかったから…」

 「さすがに、可哀想なんて思われたくないさ。
 そんな時でも、同情されたくない男のプライドくらいは持ちたい」

 「うん。
私もアキならそう思うかもしれない」


 「だろ?

 話の続きになるけど、そのご主人がね、あなたの言う事は分かりました。

 保険に興味なかったし、ただ入っていればいいくらいにしか思わなかった。

 小さな頃から母が掛けてくれたものを変える気もなかった。

 ただ、妻に遺してやれるもんがないのも、夫として申し訳ない。

 牧瀬さん、夫として責任を果たせるものにして下さいって言ってくれたんだ。

 やぁー嬉しかったなー

 人の心が動く瞬間を、目の前で見れるってさ。


 上司が言うんだ。

 営業は自分の成績を気にしてするもんじゃないって。

 相手の気持ちに寄り添って、あなたの為にって気持ちが、人の心を動かすもんだって。

 まさにね、その通りだって思う。

 この仕事を選んで良かったって思える瞬間。

 それでもさ、成績はついて回るからね、綺麗事ばかりも言ってらんないけど……

 辛くて、苦しいもあるけど、上手くいった時は格別な気持ちを味わえる仕事なんだ。


 あっ、ごめんな!
仕事の話ばかりで……

 退屈させただろ?
だから、これでおしまい。

 美味いもん食べて、飲もう!」


 アキ、あなたの嬉しそうな笑顔が、何よりのご馳走なんだよ!

 言わないけどね…
< 174 / 241 >

この作品をシェア

pagetop