溺れる恋は藁をも掴む
 「アキのお父さん、
いいお父さんだったんだろうな‥‥」

 アキのお父さんの好物がどんどん運ばれてきていた。



 蛸ワサをつまみに生ビールを飲みながら、アキは答える。

 「生きていた頃は、反りが合わなくて、ウザく感じたよ。

 親父の事は、死んでからの方が考えるようになった。

 死んでからじゃないと、分からない事や社会に出るまで気づけない事ばっかだったもん」


 「ーーそうなんだーー」

 「完璧な人間なんて居ないだろ?

 どっかズレてる所があったりして、それが個性だったり、その人の味になるわけでさぁ……

 でも、ズレが大きく生じると、自分ではどうにもならない程、軌道修正が出来なくなるんだよな……

 挙句、周りが翻弄されるだろ?

『何考えてるの、付き合ってらんない』なんてさ……

 心の中までは見えないから、結局、目に見えるところでその人を決めてしまうだろ?

 ズレが大きいと、共感とか出来なくなってゆくんだよね…

 親父は不器用な人だった。

 不器用過ぎた真面目な人だった。

 上手く息を抜けない人だった。

 心の行き場所を失うくらい、真っ直ぐしか向けなかった人だったよ……」
< 176 / 241 >

この作品をシェア

pagetop