溺れる恋は藁をも掴む
 「華……」

 こうして、名前を呼ばれ、寂しさ、辛さ、哀しみ、コンプレックスごと、あなた私を優しく抱いてくれた。

 「アキ……」

 そして、あなたの名前に、そっと愛しさを忍ばせて、呼び返す。


 「綺麗だよ……華……
外見は変わっても、中身はあの頃のまんま。
 心まで痩せてない。
そんな、華に癒やされてゆくよ……
 ーー不思議だな、華はーー」


 「アキ……
有難う…

 痩せたら、世界が変わったと思った。
確かに少しだけ変わった。
 けど、私は私なんだよね?」

 「そ、
華は華。
 そのままでも、十分、魅力的な女だから、自信持てよ!

 世の中の男全員振り向かせたいわけじゃないだろ?」


 牧瀬晶一人だけ、振り向かせたいよ。


 「うん」

 「なら、このままでいろよ…」


 このままでいいの?
そんな風に言われると誤解しちゃうよ…


 照れ隠しにあなたの背中をそっと抱いた。

 今、一番、あなたの近くに居るのは私。

 この時間だけは、あなたの心も身体も私に頂戴。

 ーーせめて、この時間だけでもーー



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