溺れる恋は藁をも掴む
 莉緒はまた煙草に火をつけた。

 「1年のうちで、晶が1人で居たくない日は、百合さんが居なくなってからは、私が一緒に過ごしてきたわ。

 それが当たり前だと思っていたから。

 特別に約束してなくても、それは暗黙の了解って思っていたわ。

 最高の理解者である限りね!」

 煙草の煙が俺の目の前を舞う。

 莉緒は俺の目に視線を向けて、真っ直ぐ見た。

 キリリとした切れ長の一重瞼で、目力の強い莉緒。

 ただ見つめられるだけでも迫力がある。


 「晶は正直ね」
莉緒は笑う。

 「えっ?」
俺は呆気に取られた。

 「いい訳なんていいから。
私にも事情が出来たから」

 「事情?」

 「来月、彼氏が大阪からこっちに帰って来るわ。
一緒に住む事にしたの」

 「結婚するのか?」

 「そう簡単にしないわよ!
 ちゃんと、見極めてからよ。
女の一生は男次第って、晶が教えてくれたんじゃない」

 「あぁ‥‥」

 「一緒に住めば、晶と最高の理解者の関係を続けてゆくのは不可能じゃん!

 丁度いい潮時だったんじゃないかな?

 楽しかったよ、晶。

 晶とは友達に戻る」

 「莉緒‥‥‥」

 「用件はそれだけなんだけどさ……」

 「あぁ‥‥
幸せになれよ」

 「本当、バッカじゃね?

 男に幸せにして貰おうなんて思うなって、晶が教えてくれたんじゃん。

 女も幸せになる力を蓄えながら生きろって!」

 確かに莉緒にはそう言ったんだよな…

 男も女もどちらかに依存してしまうと、別れがきた時に、自分を見失い、哀しみの中で苦しみもがいて脆くなる。

 莉緒も俺に正直な心のストライクを投げる女だったから、俺も格好つけずにありのままの姿を見せてきた。
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