溺れる恋は藁をも掴む
 目の前の莉緒を見ながら、莉緒と刻んだ時間が頭の中で回想していたんだ。


 神田莉緒は、派手な外見からは想像もつかないが、心に傷を抱えた女だった。

 初めて莉緒とそういう関係になった時、肌を抱き寄せながら、莉緒は自分の本当の姿を話し出した。


 「私さ、昔、苛められてたんだよね……

 私の顔って、ムカつくみたいでさ、クラスのリーダー格の女に目つけられて、クラス中から無視された。

 ど田舎の腐れヤンキーはさ、これまた底意地悪いわけよ……

 早く、ここから逃げたいって思った。

 だから必死で勉強したんだ。

 私の事を誰も知らない場所で、一からやり直して、見返してやりたいって!」

 「今じゃ、すげぇーじゃん!
大学のアイドルでさ、雑誌にも出てるモデルだし」

 「私、この顔が嫌いさ……
生意気そうに見えるんだって。
ムカついて気に食わないんだってさ……」

 「そんなの、莉緒に対しての嫉妬だろ?」

 「人に好かれる顔になりたい」

 「十分じゃね?
お前、美人だし」

 「美人か‥‥‥
でも、晶の好みじゃないでしょ?」


 莉緒を美人と思っても、好みというわけではなかった。

 返事に困ったよ。
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